少数の超巨大企業が技術革新を牽引する時代:アリババの150億ドルムーンショット

分析

  • AI、IoT、量子コンピュータなどの分野で中国勢の強烈な興隆が起きています。中国政府、産業界はこれらの新規領域への投資の重要性を理解しており、ムーンショット型の投資を進めようとしています。
  • 日本政府は社会保障関連の予算を大幅に圧縮し、電子化による効率性の高い機構へと改造される必要があります。その資金を子どもから若年層の科学教育や科学研究費に当てることが求められます。
  • 研究者がアカデミアからインダストリーへと活躍の機会を移す動きが主に機械知能領域で起きました。今回のアリババの動きはその動きを中国でもなぞろうというものです。日本でも企業の利益剰余金をこういう分野への投資にあてるべきではないでしょうか

アリババが今後3年間で150億ドルをグローバルR&Dに投資すると発表しました。プロジェクトは「DAMO Academy」との名前が付きました。「Academy for Discovery, Adventure, Momentum and Outlook」の略です。米国は米サンマテオ、米ベルビュー、モスクワ、テルアビブ、シンガポール、北京、杭州の7カ所に設立。100人程度の研究者を雇用する予定と言われます。

ブルームバーグによれば、アリババが過去3会計年度に投じた研究開発費は64億ドル。今回発表した支出額はその2倍以上に当たります。GoogleのGoogleXや買収したDeepmindなどのムーンショットを真似た試みを行おうとしています。

アリババの株価は今年うなぎのぼりを続け、時価総額は4690億ドルに到達しています。16:20現在、Amazon.comを超しています。財務基盤が固く、キャッシュも豊富であり、リスクの高いムーンショットが行えます。決算数値の検討に関してはStockclipを参照ください。

人工知能で米国にキャッチアップ

ゴールドマン・サックスのレポートは、中国の人工知能領域は米国に急速に追いついていると指摘しました。中国政府は7月にAIの開発ガイドラインを策定。2030年までに人工知能領域でグローバルイノベーションセンターになることを目指すとしています。「人工知能市場」は1兆元に達すると予測しています。

日本の総務省情報通信政策研究所で起きた「残念なこと」とはかなり異なり、中国政府がこの点に関して、理性的な先見性を持っていると判断できます。

ジェフリー・ヒントン、フェイフェイ・リー、アンドリュー・ウンなど、研究者がアカデミアからインダストリーへと活躍の機会を移す動きが機械知能領域で起きました。アンドリュー・ウン氏は特にラディカルです。バイドゥを辞して自分で資金調達を行い、AIスタートアップを起業しました。

今回のアリババの動きはその動きを中国でもなぞろうというものです。Googleなどを中国でするのが、バイドゥ、アリババ、テンセントなのです。他の分野でも米中二強は中・長期的な構造と考えられそうです。

結論

The Economistが「Superstar」と呼ぶジャイアントがサイエンスとその社会適用を牽引していくというのが、その実質だと考えられます。