最強財閥が巻き起こすインド・インターネット革命

予測

  • インドは世界有数のインターネットエコノミーに発展します。その形は富裕国のプロセスをなぞるのではなく、リープ・フロッグします。我々の知らないより進歩したデジタルエコノミーがインドに誕生しつつあるのです。
  • リアル経済を経由せずに直接デジタルエコノミーが発展するため、高い効率性の経済を生み出せる可能性があります。
  • 中国のような強固な政府が存在しない点が、マクロ経済の成長に影を落とす可能性があります。「中国の奇跡」とどう異なるかを見極めながら、その成長を見守る必要があります。

経緯 / 現状

データ通信費91%減少、Jioの革命的な価格設定

  • インドでインターネット革命が起きています。インド最大財閥Reliance Industriesの通信キャリアReliance Jio Infocommが開始した低価格・高速のワイアレスネットワークは急激にインドの人々のコネクティビィティを拡大し、低所得者まで4Gを提供しています。これまでインターネットに縁のなかった低所得者層にいきなりその機会が拡大されています。
  • Reliance JioがとったストラテジーはAmazonのストラテジーに似ています。
  • 2015年〜2016年前半、キャリア上位3社Bharti Aritel、Vodafone、Ideaのシェアで60%程度。(1)キャリア事業は収益が拡大する前段階で膨大な設備投資額を費やす(2)許認可事業−2つの性質から寡占市場になりやすいと考えられます。インドも上位3社を中心とした寡占市場に向かうと考えられていました.
  • ここでReliance Jioが2016年9月に参入しました。1GBバイトあたりのコスト(平均)が3.5ドルから3.15ドルへ下落(-10%)。Reliance Jioは参入以前に7年間に渡り250億ドルを設備投資し、インド国内各地にアンテナを立て続けていました。
  • 2016年9月に提供開始したのはインド全国対象とした4Gネットワーク。加入者の通信費は3月17日まで無料というディスラプティブな価格設定を敷いたのです(3月以降1GB4.7ドル)。2016Q4から2017Q1にかけて先行事業者たちが契約者を減らし、先行事業者のみの1GBあたりのコストは2ドル程度まで減少(-48%)しました。ARPU(1顧客あたりの月間利益)は-20%。3月17日時点でJioを含めた全事業者の1GBあたりのコストは0.33ドルと激減しています
  • Jioが3/17までに獲得した契約者1億800万人のうち7200万人が他のキャリアから乗り換えた。7200万人は全キャリア契約者の67%であり、文字通り大移動を引き起こしました

4Gフィーチャーフォン端末を900円まで

Jioは7月下旬に新しい戦略を導入しました。4Gフィーチャーフォン(4Gガラケー)を通信契約とパッケージにして提供しました。HSBCはJioが一人あたり650-975ルピー(約1150〜約1700円)の「補助金」を与え、端末価格を900円程度(英金融機関HSBC推計)下げると推定しています。他のキャリアを利用して2G端末&2G通信を利用するユーザーを4G端末&4Gネットワークに移転させることがターゲットです。

フィーチャーフォンの機種は「Nokia 5」(画像㊦)。Nokia 5にはMyJio, JioTV, JioCinema, JioMusicというJioアプリケーションが載ります。1社でYouTube、Netflix、Spotifyを持とうとしていると推察できます。Nokia 5は低所得者向けの機種。低所得者を4Gの世界に引き込んで、自社のプラットフォームに載せてしまう戦略です。

Xiamiは端末購入とJio契約で30GBのデータ利用を無料提供すると発表し、ASUSは同様のパッケージで100GBを提供します。

他にもJioはブロードバンドサービス「Jio Fiber」、Wi-Fi hotspotの「Jio Fi」を開始します。これらでも「ダンピング」戦略を敷いています。「Jio Fiber」では現状の事業者よりも極めて速い100Mbps100GBデータを3カ月無料で提供するというキャンペーン。「Jio Fi」ではユーザーは1999ルピーのデバイスと509ルピーのリチャージパックを購入すれば、224GBのReliance Jio のデータ通信を利用できます。

Jioの異次元の戦略によりインドではコネクティビティが「水のように」安くなろうとしています。インドの一つの州ほどのサイズの日本ではなぜここまでデータ通信費がたかいのでしょうか。

Jioはネットのインフラとエコシステムの両方になる

Reliance Jioはインドのインターネットのインフラストラクチャーレイヤーからアプリケーションレイヤーまでを支配しようとしています。

人口13億人のインドでは、通信キャリア事業だけでも相当な規模になるはずです。通信キャリアは事業基盤が築いた後はとても収益性が高いです。世界時価総額ランクをみてもチャイナテレコム、AT&T、ベライゾンは上位20社に入っていることが多いです。日本のキャリアは総務省からお叱りを受けるまではトヨタ自動車より儲けていました。だからこそ、Jioはこれだけの大勝負を打てるわけです。

端末を配ってプロプライエタリなアプリケーションエコシステムに囲い込む戦略が成功すれば、中国のBAT(百度、阿里巴巴、テンセント)を凌ぐのモノポリーが生まれる可能性があります。インドではまだネット接続していない人が多く、その人の端末、キャリア、アプリケーションをまるごと確保すれば巨大なユーザーベースになります。

BCGとITEは2020年にインドのインターネットエコノミーは2500億ドル(約27.5兆円)規模まで拡大すると予測し「噴火する直前」と形容しています。Reliance Industryがこの巨大なパイをどの程度専有し、中国のBATのようなモンスターになるのか、余りにも興味深いでしょう。

reference

Mary Meeker ”2017 Internet Trends” http://www.kpcb.com/internet-trends

BCG “India’s Internet Industry to Double by 2020“ https://www.bcg.com/d/news/7april2017-india-internet-industry-doubled-153466